「ことば」からわかる日本人の特徴的な性格――『ことばと文化』

最近は「言葉」というものに興味を持っている。言語学なんていう大層なものではないけれど、こうして日本に生まれ、ブログを書いたりするのであれば、自国の言葉について多少なり知識を深めておくのは悪くないと思ったからだ。そんな時は本から知識を供給するに限る。そして読んでみたのが以下の本。

created by Rinker
¥858 (2020/10/19 09:44:18時点 Amazon調べ-詳細)

文化が違えばことばも異なり、その用法にも微妙な差がある。人称代名詞や親族名称の用例を外国語の場合と比較することにより、日本語と日本文化のユニークさを浮き彫りにし、ことばが文化と社会の構造によって規制されることを具体的に立証して、ことばのもつ諸性質を興味深くえぐり出す。ことばの問題に興味をもつ人のための入門書。

何の気なしに買ってみた本だったがこれが非常に面白い今回はその中でも興味深かった「言葉からわかる日本人の性格的特徴」についてまとめつつ感想を書いていきたい。

「西洋文化=正しい」と思ってしまう日本人

日本人である自分自身が考えても、日本はなにかというと西洋文化を崇高なものと捉える心理が強い。「ヨーロッパがやっていることなら間違いない」というような感情に、誰しも心当たりはあるのではないだろうか。同様にアメリカ文化にも同様の心理が働くことが多い気はする。ただ著者によれば、そういった西洋礼賛的な考えは大きな誤りであるとのこと。そう主張する具体例をヨーロッパと日本の景観を例にして示している。

ヨーロッパの街を歩くと一番に目につくのは綺麗な芝生だ。そういうのを見ると、ややもすると「やはりヨーロッパは美的感覚が優れているから芝生ひとつにも気を配っているのだろう」と思ってしまいがちである。しかし事実はそうではなく、単にヨーロッパの気候では芝生が日本と比べてほとんど成長せず、頻繁に手入れをしなくても綺麗に保つことができるからなのだとか日本のように放置しておくとすぐに生い茂ってしまうような環境がそもそも無いのである。

つまり問題なのは、本来は日本にのみ存在する特徴や事象を勝手に西洋にも当てはめて「ヨーロッパはやはり凄い」と思っていることにあるわけだ。先の例だと、西洋の芝生を「芝生=手入れが大変なもの」という日本と同様の特徴があるものと勝手に思い込んでいたことが愚かしいわけである。日本の価値観を基準にして他国の物事を評価すると間違いが起こりやすいということだ。

日本人がこのように西洋に習うことが癖になってしまっていることについて、著者は日本の近代化の成り立ち方に原因を見出している。

日本の近代化そして西洋化という一大文化変容が、大量の人間の移動を伴う征服や移民という文化的変容の定石をふまず、ひたすら「ものと文献」という人間の直接的接触をできる限り捨象した極めて例外的な形で行われてきただけに、ことばにたより切った外来文化受容の問題は、言語学の避けて通ることができない重要な問題である。

日本の西洋化は「ことば」のみに頼った間接的な方法で行われた。それにより見習うべき西洋の文化の根本を深く知ることができず、ただ「西洋に見習えば間違いない」という考えだけを日本人に植え付けることに繋がってしまった。こうして考えると日本人に愛国心が薄く、多様な民族がひしめくアメリカ人に愛国心が強いというのも、これがひとつの理由となっているように思う。ただアメリカもそれによって黒人差別などの問題を抱えることになったので一概に何が良いとも言えないわけだが。

この章の最後に著者は「日本の現実をはかる尺度は、日本それ自体に求めるべき」と言っている。

私の考えでは、日本語を、そして日本的現実をはかる尺度は、日本語それ自体、日本的現実それ自体に求められるべきだと思う。

無闇に西洋文化を見習うのではなく、まずは日本人の価値観で物事の良し悪しを決めるべきということだ。見習うにしても、その文化的背景を充分理解した上で取り入れる必要があるのだろう。ろくに知りもしないで愚直に異国文化を見習うことは、基本的にはリスクが高い。

日本人は上下関係を重視する民族

日本と海外の言葉の用法の違いを見ていくと、その国が持つ文化的な特徴が見えてくるというのがこの本に書いてある最も面白い部分だと思う。例えば父と子の会話だけに焦点を置いてみるだけでも「日本人は対人関係において特に上下関係をハッキリさせることに重点を置く」ということがわかってくるらしい。

父が子に話しかけるときの自分の呼び方――本書ではそれを自称詞と呼ぶ――で「パパ」「お父さん」と言うことがある。これは父親なら誰しもが当たり前に使っているように思うが実は英語には無い用法らしい。なぜなら英語ではほとんどの対話において「I ↔ you」という相称で済んでしまうからだ。

英語では父と子の対話との中で、自称詞として「father」「your father」は使えない(使ったとしてもかなり限定的な状況になる。)一般的には「I」のみを使うそうだ。

この違いを見ていくことで何がわかるかというと、日本において父親が自分をパパと呼ぶのは「子に自分が父親ということを示す」という隠れた意味合いを持っていると考えることができるのである。

また今度は父が子を呼ぶ時の呼び方――これを対象詞と呼ぶ――を見ても、日本語には上下関係を明確にしようとする特徴がある。父が子を呼ぶ時の対象詞として考えられるのは「名前」や「お前」などがあげられる。では英語だとどうなるかと言うと、やはり「名前」「you」などである。

一見すると両方とも違いが無いように思うが、ここにも明確な違いがある。それは日本では父が子を「お前」と呼ぶと上の立場を示せるのに対して、英語における「you」にはそういった意味合いが無いことだ。対話の中で日本では子が父親を「お前」と呼べない(荒んだ家庭で無ければ)のに対して、アメリカでは「you」と呼んでも不自然さを持たないことを考えてもらえばわかりやすい。つまり父が子を「お前」と呼ぶのは、少なからず「俺の立場の方が上だぞ」と示す意味を含んでいるのである。つまり自称詞だけでなく、対象詞においても日本では「自分と相手の関係性を上下に分ける」という特徴が見えてくるのだ。

このような特徴が見えてくると、日本において「男尊女卑」「年功序列」などの立場によって扱いが変わるシステムが多いことも、そういった言語的な特徴が関連していると考えることができてくるわけだ。ほとんどをIとyouで済ませるアメリカは個人の能力を尊重するなど対照的だ。

まさに「ことばと文化」の密接な関係が、外国と比較してみることで浮き彫りになってくるのである。

日本人が未知の人間と話すのが苦手な理由

また日本人は自分が置かれた環境や状況によって自己を規定するという特徴がある。例えば先ほどの父と子の例でも、父親にはまず自分が結婚して子供がいるという状況があり、さらには自分を「パパ」と呼ぶ子供がいるからこそ会話の中の自称詞として「パパ」を使う。つまりは「相手から見て自分がどういった存在なのか」を重要視するということだ。

このことからわかる日本人の特徴として、著者は「日本人が未知の人と話すのが苦手であることと関係がある」と述べている。

日本語に見られるこの自己規定の対象依存的な構造は、私たち日本人が未知の他人と、気安くことばをかわすことを好まないという行動様式と無関係ではないと思われる。相手の素性が分らないということは、相手と自分との関係が決定できないことを意味する。従って話者の自己は不安定な未決状態におかれたままになり 、安定した人間関係を組むことができにくいのである。

それを表す最たる事例として、外国人に話しかけられたときの日本人の様子が示されている。英語を話せないということは人格に大きな影響を与えることはないのだから、喋れないならそれはそれで堂々としていればいい。しかし多くの日本人はどぎまぎしたり、逃げ出してしまったりと、全体的に萎縮した態度を取るのだとか外国人という相手との対話は自己を規定できない状況なので、日本人は心理的にかなり追い詰められてしまうそうだ。またこのように「相手によって自分の立ち位置を変える」という日本人の特性が「空気を読む」「気を利かせる」「察しが良い」などが美徳とされる文化形成の理由となっているらしい。それらは海外では理解されにくい概念なのだそうだ。

日本人が国際社会において発言力が弱いとされるのは、言わばそういった「相手に合わせる」ということを期待しているということも一因があるようだ。日本人同士の会話ではお互いが相手に合わせようとするコミュニケーション方法を取るが、海外ではそれよりもまず「自己主張」を重きにしたコミュニケーションが取られる。言語力よりもそういった自己主張の弱さを改めなければいつまでたっても日本の立場の弱さは改善しない、という著者の指摘には考えさせられるものがある。

日本人は様々なものに価値を見出すことが得意

本書を読んで最も心に響いたのは「ことばが存在するのは、その対象に価値を見出したから」という指摘部分だった。

ものにことばを与えるということは、人間が自分を取りまく世界の一側面を、他の側面や断片から切り離して扱う価値があると認めたということにすぎない。

日本語はひとつのものにも色々な言葉があって面倒くさいと思ったことはないだろうか? 例えば雨を表現する言葉ひとつでも「時雨」「五月雨」「村雨」「秋雨」「朝雨」……など、あげればきりがない。英語なら全て「rain」で片付いてしまう。

ただそれは日本人が雨という事象ひとつにも、季節や場所によって様々な価値を見出してきたということの表れだ。自分はそんな日本人の感性を素直に美しいものだと思う。そんな日本語の面白さ、日本人の素晴らしさを本書は感じさせてくれた。読んでよかったと心から思える本だった。

ことばを通して海外の文化を見ていくことで、あらためて自国である日本の良さをわからせてくれる良書。約40年前の本ですが色褪せません。

created by Rinker
¥858 (2020/10/19 09:44:18時点 Amazon調べ-詳細)
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket

SNSでもご購読できます。